第108章 男は今日も苦悩する
チラリと盗み見れば酷く下手くそな笑顔を浮かべる彼女と視線が交わる
「………すみません……」
今にも流れ出しそうな程に涙が溜まる瞳
(…………泣かないでよ……)
彼女の気持ちを推し量りたかった
「まぁ俺の場合は訓練の成果なんだけど。」
「………イルミさんはほんまに意地悪ですよね」
自身の台詞に心底安心した様に弾んだ声
自身に"嫌い"と思われているかもしれないという事が彼女を傷付けるに足る事態なのだと解っただけで満足だった
何より涙を流させたい訳でも無い
涙を拭う気配を感じてテレビ画面に視線を移して気付かないフリをする
「じゃあめっちゃリラックスしてくださいよ!今笑わへんって思ってるから全然効かんだけかもです」
「…………はいはい」
先程迄の元気を取り戻した彼女は再び手を伸ばす
其れにしたって彼女は迂闊だ
女が男の身体に自ら触れるという行為は貞操面に関しての危機に瀕する要因に成るという事を微塵も考慮していないのだ
自身は健全な男であり平均男性と何等変わり無い欲を持ち合わせているというのに彼女は其れに気付かない