第12章 摘み取るなら早い内
翌朝私が起きると彼は既に起きていたので一緒に朝食をとった
「お昼は作っといたんでチンして食べてくださいね」
「うん」
お弁当を作るついでなので節約の為に作っておいた
何も食べずに待っていろ!という様な事もしたくないし……
「17時には帰りますので!」
「うん」
コートを羽織って部屋を出ようとすると
「行ってらっしゃい」
「いっ……行ってきます!」
玄関までお見送りしてくれる彼に驚き、憂鬱な筈だった連休明けの仕事への道程をスキップしたい程浮かれた気持ちで歩いた
私の仕事はコールセンターのテレフォンアポインターだ
9時から16時まで入ってアポイントさえ上げれば其なりのお金にはなる
そのお陰でそこそこ旅行にも行き楽しく過ごしていたのだが二人となると訳が違う
何時も通りの業務をこなしつつ居酒屋で働くか、と呑気に考えていた
「さーや聞いてやー」
「どうしたん?」
昼休憩
私に馴れ馴れしく話し掛けて来たのは同じ時期にアルバイトを始めた藤木だ
去年のクリスマス直後に彼女にフラれた哀れな男である
「出会い無い」
「可哀想にな」
「可哀想はあかん。やめて。合コンセッティングして」
「何さらっと言うてんねん。無理」
「無理じゃないやろさーや前にも女友達と旅行とか行ってたやん。仲良しいっぱいおるやろ」
「無理」
「さーやもフリーやろ?俺の事可哀想って思うんやったら頼むわ」
「……えー」
「ほんまありがとうな!」
「いや、するって言うて無い!」
無駄話もそこそこに休憩は終わり決められた業務に戻る
(合コン……私好きな人おるし……)
そういえばイルミさんは何をしているのだろうか
お昼は済ませただろうか
そんな事を考え始めると頭は彼の事で一杯になってしまった
やけに進むのが遅い時計を何度も見詰めた
(…………好きになってしまったとはいえ……イルミさんおらんなるやん)
まだ数日を共にしただけの彼にこんなにも依存していて大丈夫なのかと不安になる
彼が居なくなってしまった世界で私は色褪せて行く思い出だけを抱いて生きて行くのだろうか
そんな風には生きたく無い……
(……合コン……するか)
芽吹いた気持ちは仕方ない
しかし、摘み取るなら早い方が良い