第107章 室内の二人
ぶつけた足を擦りつつ俯いているとポンポンと叩かれた肩に顔を上げると
「ぎゃあああああああ"ッ!!!」
「………。」
瞬間悲鳴を上げたのは長髪をバサリと顔に垂らした彼が私を覗き込んでいたからだった
私は悲鳴と共に飛び上がり再び激しく足をぶつけた後にひっくり返った
「っ………!!!イルミさんッ!!!!!!!!!!!!」
「……ふふっ………」
「っ………!!!何笑ってるんですか!!!やめてください!!!」
悪意を持ってイタズラした彼は私のリアクションにご満悦な様で笑い声を上げた
まさか彼がこんな場面で笑い声を上げるとは思いもしなかったが残念な事に長髪に隠れた顔から表情は伺えない
私の制止も聞き入れず未だ髪を垂らした彼に僅かな苛立ちを覚えて手を伸ばす
彼のサラリとした艶やかな髪に触れてかき上げると黒々とした大きな瞳と目が合った
「っ………」
「………。」
途端に止まる手の動きに謎の沈黙が流れる中距離を詰める様に此方へ身体を寄せたのは彼だった
そのままに成っている手は彼の動きによって自動的にかき上げられ露に成った端正な顔立ちが迫る
ドキドキと高鳴る鼓動は全身を駆け巡りわざとらしく細められた瞳は私の視線を捉えて離さず
鼻と鼻の先が触れ合いそうな距離感に呼吸を忘れる
時間にすればほんの数秒
その一瞬を随分長く感じた
「もう怖くない?」
普段より幾分か低い声に頷く事も儘ならず只彼の呼吸を感じていると
彼は私の手に自身の手を重ねるとやんわり退けられゆっくりと離れる身体
彼は大きな手で残り毛をかき上げると何事も無かった様にDVDを見始めた
未だ彼に視線を奪われたまま固まる私に彼は流し目を寄越すのでドキリとしてしまった
「……まだ怖い?」
「……いえ、大丈夫です………。イルミさんって狡いですよね」
「………。」
彼は私の話が解らないと言った風に僅かに眉を潜めた後に溜息を付いた
「どういう意味?」
「イルミさん綺麗やし………………とにかく狡いんです」
「………まぁ確かに狡いかもね」
「………自覚はあるんですか」
「……さぁ、どうだろうね。あるとしたらどうする?」
「いえ………別に何も………」
それ以降会話は無く私はホラーに耐え抜いて無事エンドロールを見送った