第106章 50センチの距離
「明日はさ、何処にも行かずに部屋に居ようよ。」
「……はい」
ポツリポツリと雨粒が落ちる音だけが響く車内で彼の横顔は何処か寂し気に映った
「だから今から籠る準備して帰ろう?」
「はい!」
其れでいて彼の言葉は二人だけの世界に閉じ込める様な独占的な色を覗かせていた
それが心地好いと感じる私はもう引き返せないだろう
私の返答に満足気な表情を浮かべた彼は緩やかなカーブにハンドルを切る
彼の私への執着は強い。
私達の心の距離はこの50センチより近いのだろうか……
………彼は私をどう思っているのだろう
彼の端正な横顔から其れを伺い知る事は儘ならないままに車は進んだ
私達はDVDをレンタルして彼の勧めでスーパーにてレトルト食品とアルコールを買い込み帰宅した
彼は料理もせずまったりと過ごしたいらしい
時刻は16時過ぎ
「………眠たいですね」
「眠れば良いよ」
床に寝転んだ私の隣に寄り添う様に転がった彼
近い距離にどちらとも解らない体温が伝わりドキドキと高鳴る胸とは裏腹に落ち着く心
重たい瞼をそのままに閉じれば直ぐ近くで動く気配
どうやら彼も眠る態勢に入ったらしい
「……おやすみ、沙夜子」
「イルミさん、おやすみなさい」
強い雨脚に変わった地面を打ち付ける音を聞きながら私は夢の中へ落ちて行った