第106章 50センチの距離
「沙夜子、大丈夫だから」
辺りの空気は先程迄の平穏な物に戻っていて私の背中を労る様に擦る彼の声は何処までも優しく響いた
暫く私の背中を擦ってくれた彼の手の温もりに正気を取り戻す
「………あ、……すみません」
「……うん。食べよう」
彼は何時もより柔らかい声を落とした
彼の手作り弁当は何故か私の手料理と味が似ていて彼のお口には私の味が馴染んでいるのかと思うと胸が熱くなった
そして美味しいと連呼した私に彼は満足気に「まぁね」と溢した
綺麗に完食した私達はする事も無いのでプ◯ッツを食べていたのだが途中お手洗いに席を立つ
一人手を洗いながら………彼の発した威圧感は殺気というものだろうか………と考える
………いや………猿に対して殺気等出す程でも無いかもしれない
だとするならばあれは只の威圧であり彼にとって片手間に行われた其れは私に多大なる恐怖を与えた
彼はやはり私とは住む世界の違う住人であり
此方の世界で彼は異質な存在で、何時までも馴染む事は無いのだろう……
何故か胸が切なくて早足で彼の元へ急ぐ私の視界には驚きの光景が広がっていた
「っ……!!!」
「おかえり」
なんて平然と声を掛けた彼の隣には猿が一匹座っており彼はまるで慣れ親しんだ友人にする様にプ◯ッツを渡し、猿も当然の事の様に其れを受け取ると平然と食べていたのだ
「えっ………友達………?!」
「んー。威圧したのにコイツだけ戻って来たんだよ。良い度胸してるよね」
「……はぁ…」
猿にするのと同じ様に彼の手から差し出されたプ◯ッツを受け取りながら私達は静かにシュールな一時を過ごした
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「明日も祝日だから沙夜子休みだよね」
「え、はい」
流れる景色から彼の方へ目を向けると彼は横目で私を捉えていた