第106章 50センチの距離
滝迄の坂を下る途中野生の猿と出会った
突然茂みから現れたので驚いて転びそうに成った私の肩を彼が掴む
「イルミさん!猿です!」
「ニホンザルだね」
図鑑で知識を得た彼は無表情に呟く
素通りした私達だが猿の目線が怖かった………が無事に滝迄たどり着き記念撮影をした
滝を見物した私達は近くのベンチに腰掛ける
結局朝食は取らなくて良いという結論に至った為に朝食を取らなかった私達
空腹を訴える様に鳴った大きな音に彼は視線をチラリと寄越す
「………。」
「………。」
私は羞恥から俯いていたのだが彼に手渡されたキキ◯ラの風呂敷
やはり空腹の音は彼の耳迄届いていた様で膝にそっと察した様に差し出された弁当箱が羞恥心を更に煽った
「…………食べましょうか。」
「うん」
彼の声と共に広げた風呂敷、途端に集まる野生の猿はあっという間に私達を取り囲んだ
「イ……イルミさん……」
「………。」
猿を気にかけつつも風呂敷を広げたのだが瞬間に猿が飛び上がり弁当を目掛けて襲い掛かってきた
取られる………っ!!そう感じ、声を上げるより早く感じたのは本能的な危機察知でゾクゾクと全身に立つ鳥肌は嘔吐感を感じさせる強烈な物だった
一気に下がった体温は身体を震わせ上手く行かない呼吸は短く切れる
「…………大丈夫だよ。沙夜子、しっかり息をして」
急ブレーキを掛けて去って行った猿達を見て彼の威圧なのだと認識する
まるで目に見えぬ気配に刃物を首元へ突き立てられた様な感覚は圧倒的な恐怖と静寂を感じさせるものだった