第106章 50センチの距離
彼に誘われるまま外へ出る
少し曇った空ですら今の私には心地好い
彼は何時借りて来たのか実家の乗用車に乗り込むと車を発進させる
「………何処行くんですか?」
「箕面の滝」
「おぉ!成る程」
流れる景色を見遣ると窓の外には空一面に広がる重たい雲
彼は私を誘った割には楽しそうな雰囲気は無く無表情に真っ直ぐ前を見据えていた
浮かんだ雲と彼の醸し出す雰囲気は良く似合うと思う
曇り空や雨の日は彼の怪し気な雰囲気を際立たせる様に感じる
彼の無機質かつ淡白な雰囲気は何処か冷酷さを纏い平凡な自身とは遠い印象を抱かせる
一見して無感情な彼だが実の所しっかりとした感情を秘めており
知れば知る程器用でいて不器用なのだと感じる
可愛らしいエプロンを身に付けてお弁当を作った彼の姿も事実であれば
原作で人の命を殺める彼も事実で
優しさの反面猟奇性を秘めた彼の横顔は悲しい程に酷く美しく見えた
遠く距離を感じるのは私がそんな事を考えていたから
「イルミさん」
「んー?」
思わず考え無しに名を呼んだ私に間延びした声は穏やかなものだった
彼との距離は50センチ
たかが運転席と助手席の距離
其の距離が驚く程に近く、そして途方も無く遠く感じた
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目的地に到着しても空は雲っていた
彼はお弁当を手に道を行く
キキ◯ラの風呂敷をそのままに手に持った彼はビジュアルと不釣り合いで頬が緩む