第106章 50センチの距離
彼は知らず知らずの内に自ら一人で買い物へ出掛ける程随分此方の世界に馴染んでいる様だ
「めっちゃ早かったですね……」
「沙夜子が予定より早く起きたから走ったんだよ」
「……そうですか。」
「おはよう」
「おはようございます」
走った……と彼は言うが会話を交わしながらのほんの数秒の間に約3分かかる距離を走ったにしても早すぎる
常人には成し得ない身体能力を痛感して言葉は出ず彼を見詰めていると彼はキッチンへ消える
後を追う様にキッチンへ向かうと彼はエプロン姿だった
「………?」
「今日はピクニックに行こうと思って」
「ピクニック……ですか」
まさか彼の口からピクニックなんてファンシーな言葉が出て来るとは思いもしなかった……萌え。
しかし、ピクニックと今の彼の姿は上手く一致せずポカンとしていると彼は徐に艶やかな髪を結うと手を洗い慣れた様にボウルを取り出すと卵を割り始めた
「………何気に初めてイルミさんの料理中見るかもです……」
「あぁ。そうだね」
「えっと……?何でイルミさんが料理を……?」
「え?だからピクニック。お弁当作ろうと思って」
「おぉ!!!………死にそう…………」
「元気に寝癖が付いてるんだから死なないよ」
私は萌え死にそうになっていた
キッチンから追い出される気配も無く淡々と熱したフライパンに玉子を流し込む彼の姿に感動してまんじりともせず目に焼き付ける
海外土産に貰ったエプロンはふんだんにフリルがあしらわれており彼が動く度にひらひらとフリルが靡きTシャツ越しにも男らしい彼の背中にニヤニヤしてしまう
彼はその最中にも唐揚げを作り上げ綺麗な玉子焼きをお弁当箱に詰める
(………イルミさんの大好物ばっかりじゃないですか……)