第105章 ぬいぐるみのヒトコマ
「じゃあ今までで楽しかった事は?」
『遊園地と釣りとプラネタリウムと旅行…………とか色々』
「じゃあびっくりした事は?」
『飛行機とカラスの頭の良さ』
素直な回答に胸が弾む
彼を知れる事が嬉しくて純粋に楽しい
彼が私と過ごした日々を楽しいと感じていると知れただけで幸せだった
「じ、じゃあ好きな女性のタイプは?」
「………はい、終わりね」
私はつい浮かれて調子に乗ってしまった
彼は私にイルにゃんをぽいっと投げるとまたテレビを見始めてしまう
………気まずい………
「………ありがとうございました。これはもう特技通り超して新技ですね!」
「ふーん」
彼はチラリと私を見遣ると単調に答えた
_________"
お風呂上がりに冷蔵庫を開く
おやつにしようと奮発して購入したハーゲンダッツを取り出そうとしたのだが忽然と消えていた
「あれ……………?」
私は確かに彼のと二つバニラ味のハーゲンダッツを購入し、しっかりと仕舞った筈だった
1日の疲れを癒す至極の口当たりを楽しみにしていた
食べた記憶は無い………
私が食べていないなら犯人は……
「イルミさん……アイス食べました?」
彼は私を真っ直ぐ見据えた後にゆっくりとイルにゃんを掴む
『ごめん』
「…………………。」
『食べた』
「二つありましたよね。二つ共食べたんですか?」
『うん』
「…………美味しかったですか?」
『……うん』
「……イルミさん」
『明日同じの買ってくるよ』
あからさまに視線を反らしたままぬいぐるみを使う彼
都合の良い時だけイルにゃんに成ろうなんて虫が良い
私は思い切りイルにゃんを奪うと
「ハーゲンダッツバニラとストロベリー。二つずつお願いしますね?」
彼を真っ直ぐ見下ろして言った
彼は「約束するよ」と言ったっきり腹話術をする事は無かった