第105章 ぬいぐるみのヒトコマ
9月のある晩
私達はバラエティー番組を観ていた
画面一杯に映るいっ○く堂の腹話術を見て唸る
「ほんまに凄いですよねこの人」
「………。」
「………こんにちは………」
誰しも一度は腹話術を試みた事は無いだろうか……私だけかもしれないが
私はイルにゃんを手に真剣に取り組み真剣に出来なかった
隣から刺さる視線が痛い
「あはは………やっぱり出来ませんよねぇ……」
真っ暗な瞳で私を見詰める視線に非常に恥ずかしくなり俯いていると私の手からイルにゃんが取り上げられた
彼の行動が理解出来ずにキョトンと見ていると
『こんにちは』
「!!!!!!!!」
いっ○く堂も真っ青な程口元を動かさずはっきりとした声で彼はハイクオリティーな腹話術を披露して見せた
私は驚きで口をパクパクさせた後に感激してしまった
「凄いです!!!!もっとしてください!!!!」
『良いよ』
最早彼はイルにゃんとして話し始めた
思いの外ノリノリである
「えっと……イルにゃんの趣味は?」
『寝る事』
「猫やもんなぁー……」
………………可愛い。
彼がぬいぐるみを片手に持って無表情にイルにゃんを演じている姿は恐ろしい程シュールかつ可愛いものだった
「じゃあイルにゃんの特技は?」
『じっとしてる事』
「そっか………じゃあ好きな食べ物は?」
『人形だから何も食べないしお腹も空かない』
「…………」
…………おっと………。特技の時点で、ん?とは思ったがまさかキャラクター性は皆無でぬいぐるみとして話しているとは思いもしなかった
「あの、イルミさん。イルにゃんにちゃんと性格を付けてあげてくださいよ………なんかほんまにイルにゃんと話してるみたいで楽しいし」
「性格………」
彼は私のリクエストに素直に首を捻った後にまた『こんにちは』と話し始める
「こんにちはイルにゃん!イルにゃん好きな食べ物は?」
『ネズミ』
「……おっと………。」
次いで彼はリアリティーを追求した様だが即座にキャラ変更を願い出る