第11章 恋の季節にはまだ早い
冬の薔薇は虫等の被害も少ないからか傷みもなく綺麗に桃色の花を咲かせていた
「ほら!咲いてました!」
何故か思い出が甦り笑顔を向けると
不意に屈んだイルミさんが薔薇を手に持っていた
余程気に入ったのだろうか、土を丁寧に払っている
(薔薇持っても本間に様になるなぁ……)
なんて見とれていると目が合って彼が一歩距離を詰めて来た
私は先程の事も相まってあまりもの驚きでフリーズし、ただ彼を見上げる
ぐんと縮まった距離から自然に上がった視線の先彼はゆっくりと瞬きをした
こんな至近距離で彼を見上げたのは初めての事で、こんなにも身長差があったのかと妙に冷静に考えてしまう
彼の長い指が私の髪を耳に掛けた時少しだけ頬に指先が触れて私の顔が熱を帯びている事に気が付いた
時間にすれば一瞬の出来事で、ほんの2,3秒の事なのだろうが
妙に長く感じたのは私の浅はかな欲からだろうか
気が付く頃には彼は並立って歩いていた時よりも一歩引いて私を見ていた
………見ているというより眺めている
「…?」
状況が理解出来ず呆然としていた私に彼は自身の耳元を指差して
「バラ」
とだけ言った
そのジェスチャーと彼の手に先程の薔薇が無い事に気付き
やっと自身の耳元に薔薇が飾られている事を理解した
「お姫様?」
真っ直ぐ私を見据えて言った彼。
お昼の前に何気無く話したなんて事無い昔話だった筈なのに……
私は今どんな顔色をしているのだろうか……
頬を撫でる風との温度差で想像をするまでも無く真っ赤なのだと容易に解った
「……お姫様気分なだけの話しですけどね!」
私は今どんな顔をしているのだろうか
恋の季節にはまだ早い冷たい空気が吹く中で私は見事に恋に落ちたのだった