第102章 彼と私の防犯講座
「イチゴタルトです!美味しそうやから衝動買いしちゃいました」
「ふーん」
彼は興味無さ気に空返事をしながらフォークに刺したイチゴを私の皿にポンポン置いて行き彼のタルトはあっという間に生クリームとタルト生地だけになってしまった
「………良いんですか……?」
「頑張ってたからね。ご褒美」
「ご褒美……ありがとうございます!」
「うん」
彼の紳士的かつぶっきらぼうなアフターフォローに少々くたびれていた背筋が途端に伸びた
甘酸っぱいイチゴに癒されてたちまちやる気がみなぎりあっという間に平らげる
「よし!お願いします」
「うん」
彼と向かい合って立つと彼は距離を詰めて屈む
(始まってるの?!攻撃したら良いの?!)
なんて困惑しつつも身構えた私だが彼は私の口の端をやんわり拭うと指の先端に付いた生クリームをペロリと舐めた
細められた伏し目がちな瞳が妖艶でその一瞬の仕草で彼を包む雰囲気は色を変える
「じゃあ俺は今から痴漢犯ね」
普段通りのトーンで手を鳴らす彼だが彼の瞬間的なフェロモンに充てられて何度も頷く事しか出来なかった
痴漢撃退法として学んだ方法は相手の指さえ掴んでしまえば良いというお手軽なものだったので初級編としてはやり易いなんて思っていたら彼の身体に押されて壁際に押し付けられてしまった
「?!」
突然何が起こったのか理解出来ずに見上げれば彼は無表情に首を傾げて
「満員電車ってこんな感じ?」
と聞いてきた
成る程………リアリティーを追求しているらしいが私の心臓は騒いで仕方がない
「………はい」
やっと絞り出した言葉に「そう、じゃあ実践スタート」なんて単調に言って退ける彼は私を異性として認識していないのか?と疑う程に淡々としていて
惜し気も無く背後から密着した身体に恥ずかしいのか悲しいのか複雑な気持ちに成った