第102章 彼と私の防犯講座
………だが彼の言う通りだ
待ち伏せしていた男だって彼が居たから鉢合わせる事が無かった
下着泥棒だって彼が撃退してくれた
ストーカー擬きに至ってはまだ未解決な為に現在進行形で危機に瀕している状態になる
「で、沙夜子独りでも対処出来るようにその術を教えようと思って」
「………成る程です。お願いします!!」
何となく「いずれ俺は居なくなるから」なんて意味を含んでいる様な言葉に胸がズキリと痛んだが
彼の発言は至極真っ当で暗殺のスペシャリストに手解き頂けるのは心強く思った
「じゃあ立って」
「はい!」
彼は沢山の技を本当に手取り足取り教えてくれた
「もっと腰入れて」
なんて言いながら背後から腰を掴まれ修正されたり
「此処を押すんだよ」
なんて言って自らに触れる様に私の手を胸板に誘われたり
邪な思考が働きドキドキしてしまうが至って真剣な彼の表情に私も必死で学ぶ姿勢を貫いた
頬が熱いのは動いているからだ、と理由を付けて取り組む事一時間
汗ひとつかいていない彼と相反して私は軽く息を上げていた
「………まぁこんなものかな」
「……ありがとうございます!」
「うん。じゃあ実践編ね」
「え!?」
「いくら練習したって実践で役に立たなきゃ意味無いでしょ」
「………いや、まぁ……はい………でも」
「でも?」
「先におやつ食べませんか……?」
「…………はぁ………良いよ」
彼はチラリとちゃぶ台の上に放置されているタルトを見遣ると溜息と共に座椅子に座り長い指でフォークを持った