第101章 何でもない日常へ
「沙夜子は?」
くりっと首を傾げる彼にドキリとしつつも
「プールも楽しかったし首里城でアイス食べたのも楽しかったし水族館も楽しかったし海も磯遊びも楽しかったです!」
「要するに全部だな」
「ですね!」
私は満面の笑みで答えた
昨夜の事も含めて旅行の思い出にしてしまおうと思った
彼もきっとそのつもりで何時もと変わらず接しているのでは無いかと勝手ながら思う
彼は私の言葉を静かに聞いたままコーヒーを一口飲んだっきり何も言わなかった
飛行機が離陸するまで約一時間半
クロロさんは自身のお代を置いて消えてしまった
残された私達は飲み物を飲み干してしまい視線を交える
「……どうする?」
「どうしましょ」
「見てまわる?」
「お土産買ったしなぁ……」
「……そうだね。ここに居ようか」
「はい………あ、ぬいぐるみ」
私は敢えて言葉にした
家に帰ってしまう前に伝えておきたかった
「ぬいぐるみありがとうございます。プリンも食べました、ありがとうございます」
「うん」
彼は私を真っ直ぐ見据えたまま頷いた後にチラリと傷痕に視線を向けてそのまま床に落としてしまった
あの出来事は無かった物となるのだろうか………胸がズキリと痛む中それ以上言葉に出来ず
私は時間を潰す様に止めどなく話した
彼は穏やかな表情で相槌を打ち続け気が付けばあっという間に機内にいて
ヒソカさんの事が気になったが最後迄姿を現さなかった
キラキラと目に眩しい程に輝くビル群を眺めながら、あぁ帰ってきたのだなと実感する
実感しているこの時ですら過去に成るのだろう
____________"
実家に寄って親方を迎えに行きお土産を渡し帰宅する
古びた壁や軋む床は旅行前と変わらず落ち着く匂いが鼻を通る
そして気付いたのは一人で暮らしていた時と家の匂いが変わっている事だった
家の匂いとは生活によって変わる匂いだと私は思う
彼が来た事で匂いが変わった
半年以上このアパートに暮らした彼の生活を思わせる香りは私に安心をもたらしていた
「ただいま」
まるで本当の自宅の様に言った彼を見上げて無性に泣きたくなったのは私が少々感傷的だったからなのだろうか