第101章 何でもない日常へ
彼の希望は一切含まれていないのは最初から解っていたが今の私には気まずさを助長させるには十分でハンドルを握る彼を盗み見る
彼は普段と寸分違わず端正な顔立ちで前を見据えていた
不意に差した日差しに瞳を僅かに細めた表情が昨夜と重なり一気に跳ね上がる鼓動
本当に美しい横顔はいつまでも眺めていたい程でその中性的な顔とは比べ物に成らない程無駄が無く鍛え抜かれた肉体は最早犯罪的だと思う
緩くハンドルを握る指は長く血管の浮いた腕は逞しく引き締まっておりその腕に抱かれたのだと思うと溶けて無くなりそうだった
「……なに?」
美貌に見惚れていた私の視線は相当刺さっていたのか彼は私を横目に見て声を漏らした
「………っ!!」
何と話すべきか頭が真っ白になり手汗を大量にかく
何か話さなければと口を開いた途端にぎゅるぎゅると地響きの様な物凄い音で腹の虫が鳴り車内に響いた
「………………お腹減ってたの?」
「………はい」
朝寝坊した為に朝食を取らなかった………しかし、こんなにも可愛くない音を鳴らさずとも良いと思う。まるでオジサンのイビキだった。
後部座席から笑いを堪えるクロロさんの気配を感じるが私は狭い車内で何処にも逃げられずにじっと前を見据えていた
暫くしてコンビニに寄ってくれたイルミさん
私はパンを3つ購入した
別にそんなに大量に要らなかったがあんな音を聞かれてしまった手前本当に腹ペコだったんだとアピールしたかった
目的地を目指す車内で貪る
「良かったな沙夜子。旨いか?」
「………はい。旨いっすね」
爽やかに声を掛けてくるクロロさんを思い切りビンタしてしまいたくなったが羞恥からの八つ当たりなので実行はしない
チラリと私に視線を向けた彼の目に私がどう映ったかは見当も付かないがちょっとでも可愛い雰囲気をと選んだ生クリームのパンはとても美味しかった
___________"
目的地に到着して先を行く彼の背中を追う様に歩き出す
「なぁ、」
すると背後から声を掛けられ振り返ればクロロさんは小声で
「それイルミだろ?ヤッた?」
と自身の首筋を指差しながら真剣な表情を浮かべるので驚きで転びそうになった