第100章 濡れた素肌
昼間訪れた売店を覗くと黒猫は無表情に陳列されていた
しかし棚を見遣れば彼女の欲しがっていた中くらいのぬいぐるみが無く暫く立ち尽くす
大きなぬいぐるみは持ち帰るには巨大で小さなぬいぐるみは自身の身代わりに成るには心許無い
「ねぇ、あの黒猫の中くらいのって無いの?」
「え、あ、はい、少々お待ち下さい!」
店員の女は真っ赤な顔で何度も頭を下げてバックヤードへ消える
暫く待っていると申し訳無さそうに旧館に同じ物があると言われた
「どうも」
再び旧館へ向かう途中プールサイドでは太鼓の音が鳴り響きステージでは何らかのショーが行われていた
彼女なら手を叩き夢中に成って眺めていただろうに……なんて思いながらも素通りする
旧館の売店を見て回り三件目にして漸く黒猫を発見した
何故自身がこんな下らない物を探し求めているのか一瞬冷静に成ったが自身を突き動かすのは只彼女の存在で溜息が漏れたが彼女は屈託無く喜び跳ね回るかもしれない、なんて考えれば満更でも無かった
中くらいの黒猫を手に再び新館へ向かう
ショーは拍手喝采で終了した様で人々が散り始める
エレベーターが混むのは厄介だ
足早に広場を後にした
彼女の部屋をノックするが返事は無く気配も感じない
騒ぐ胸を押さえて容易く鍵を開く