第100章 濡れた素肌
大勢の人で賑わう祭り会場を抜ける
艶やかな衣装に身を包んだ女性達が楽しそうに笑うのを横目に彼女の衣装姿を見られなかった事に落胆している気持ちに気が付いた
どうしたものかと頭を掻く
昼間二人で訪れた岩場にて真剣な表情を浮かべて小さな海へ懸命に腕を伸ばす仕草や花を耳元に飾った際に頬に紅をさして睫毛を伏せた姿が脳裏に浮かび胸がぎゅっと締め付けられた
彼女は明日もまた笑ってくれるだろか。
床に伏せているのは似合わない
早く元気に成ってはくれないだろうか
そんな事ばかりが繰り返し繰り返し頭を過った
新館へ辿り着いた際に大きな黒猫のぬいぐるみを嬉しそうに抱き締める小さな少女と擦れ違った
………そう言えば彼女はあのぬいぐるみを自身と似ていると言った
あんな間抜けな物と似ているなんて複雑な気持ちだが彼女の感性は理解の外にあるので良しとしよう
……彼女は一人ベッドにくるまり回復を待っていると考えると
自身が傍に居ない時に自身の代わりにでもあの間抜けなぬいぐるみを宛がってやっても良いかもしれないと思った
実際彼女は購入しようとしていたのだが自身が気に入らず阻止したのだ
エレベーターに向かっていた足を売店へ向ける