第98章 潮だまりとTシャツ
「お………おぉ………」
「はい。」
「あ、ありがとうございます」
まさかの場面で発揮された彼のワイルドさに無人島でも生きて行ける……なんてどうでも良い事を考えつつお手製網を受け取る
「………服濡れますよ……良いんですか……?」
「別に。このまま帰れば良いし」
「…………」
私は内心鼻血を垂らしながら考えた
上半身を露出した彼がホテルのロビーを歩くとなればその引き締まったパーフェクトボディの餌食に成る人間が続出し、最悪死者を出しかね無い……
しゃがみ込んで潮だまりを覗く彼の背中を盗み見る
…………なんて筋肉だッ!!!!!!
間違い無い。死人が出てしまう……
「イルミさんそのままホテルに帰るのはダメです!びちゃびちゃでもこのTシャツを着て帰ってください!!」
「………」
振り返り私を見上げた彼は露骨に眉をひそめた
しかし譲れない
ビーチで人類皆水着ならまだしもホテルのロビーで彫刻の様な姿を晒す等誰が許しても私が許さない
「絶対嫌ですからね!イルミさんがそのままホテル帰るとか許しませんよ私は!!……網も渡しませんからね!!魚取りますからね!!!びちゃびちゃでも着て帰ってください!!!」
「………解ったよ」
私の熱意が伝わったのか彼は溜息と共に緩く頭を掻くと了承してくれた
ずっと彼の背中を見詰めていた私だが下を向いていた事で垂れた長髪の隙間から覗く彼の首筋にキラリと光る物を発見する
「………イルミさんがネックレスしてる」