第98章 潮だまりとTシャツ
「……行くって……何処に行くんですか?」
「…………」
「………?」
「海」
「海ですか。そう言えばホテルから歩いて5分くらいで海ですよ!」
「行こう」
「はい!」
彼と並んでホテルのエントランスを抜けるとカラリと乾いた暖かな日射しに包まれた
隣の彼を盗み見ると彼は眩しさに僅かに瞳を細めていた
その些細な表現の変化でさえも愛しくて胸がキュンとする
そういえば沖縄旅行に来てから本当に二人きりになったのは初めてかもしれない
水族館は二人きりだったと言われればそうだが施設内には一応クロロさんとヒソカさんも居た訳で
あの二人を意識せずに歩くのは何だが久々な気がして足取りが軽くなる
勿論四人でいるのは楽しい
だけど大好きな彼を独占出来るのは其れとは変え難い喜びがあった
人気の無い道を行けば広がる海
ゴツゴツとした岩場には幾つもの潮だまりが出来ており見るからに遊泳には不向きな場所だった
しかしそれ故に私達以外に人の気配は無く秘密の場所を見付けた様な気がしてドキドキと胸が高鳴った
「見てください!魚魚!」
「本当だ」
足元がスニーカーで良かった
私は岩場を慎重に歩き潮だまりを覗く
其処には取り残された様々な魚が泳いでいた
………網とバケツが欲しい………
ボクのなつやすみのやり過ぎだろうか……激しく網を欲する私がいる
潮だまりを悠々と泳ぐ魚……取りたい………