第97章 溜息
記憶は何時もの事ながら消し炭に成っているがあの二人の前で失態は犯さないだろう………
何かあれば明日謝ろう……なんてぼんやり考え直ぐに意識を手放した
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酔った彼女はいきなり自身の脚に飛び付いた
ただ椅子に座っていた筈が寝間着に身を包んだ彼女が脚にまとわりついた事で心に焦りが生まれる
(……………胸当たってるんだけど)
脚を揺すろうとも離れる気配は全く無く
「イルミさん!脚に力入れてください!」
「は?…………沙夜子酔ってるよ。水飲みな」
「嫌です!!早く力を!!」
こう成った彼女は言う事を聞かない
暫く放って置こうと思った矢先
彼女の視線は自身の下腹部へと移り、途端に突っ伏す様に床に倒れ込んでしまった
(……まったく)
「沙夜子、まだ飲むの?」
「これが飲まずにいられようかッ!!」
威勢の良い声と共に復活した彼女は酒を煽るがどう見たって高揚した頬や呂律の回らない舌……飲み過ぎだ
彼女が御手洗いに立った時を狙い彼女のグラスを一気に飲み干した
自身の好みとはかけ離れた甘味が喉を通る
「クックックッ………えらく紳士だね♥️」
「煩い。」
茶化しに構ってる暇は無い。
御手洗いから戻った彼女は不思議そうにグラスを覗く
「あれ?私まだお酒……」
「さっきので最後の約束だよ。はい、これ飲んで」
約束なんてしていないがペットボトルの水を渡すと素直に飲む彼女
こうなればこっちのもので
「さ、寝るよ」
「………イルミさんは?」
「寝る」
「じゃあ私も寝る!」
「うん」
自身がベッドへ横たわれば彼女も真似る様に横に成った
「おやすみなさい」
「おやすみ」
暫くじっと横になっていると聞こえる寝息
彼女は無事眠ってくれた様だ
「俺、沙夜子を部屋に運んで来るよ」
「お前大変だな……」
「慣れた」
彼女を独りベッドに寝かせる
やんわり頬を撫でたが反応は無く部屋に響くのは呑気な寝息だけだった
(……全く……手が掛かる……)
内心そう思いながらも満更では無い自分にまたひとつ漏れた溜息は広い廊下に溶けて消えた