第96章 水族館と手の温もり
次いで見えてきたのは色鮮やかな水槽
まるで珊瑚礁を再現した様な水槽にはカラフルな魚が泳いでいる
「あのピンク昨日見たね」
「え、まじですか!いました?」
「うん。沢山いたよ」
海が好きになったと言った彼は以前くじ○の博物館を訪れた際よりもゆっくりと水槽を観覧する様になっていた
無表情ながら大きな瞳を動かして視線を走らせる彼はどこかあどけなく映る
"サンゴの部屋"と書かれたコーナーでは珊瑚礁の危険生物を知ることが出来るのだが一見地味で人も疎らな其所が彼には魅力的だった様でひとつひとつ彼の解説付きで紹介されてしまった
「この程度なら俺は平気だけど沙夜子なら一時間で死んじゃうね」
なんて物騒な言葉付きだったのが如何にも彼らしい
その後珊瑚礁の魚達を個別で見られる水槽エリアへ向かった
淡水生物も展示されている小ぶりな水槽は彼の身長だと屈まなくてはいけない様で、彼が水槽を覗き込む度に近付く距離に密かに緊張してしまったりした
そして出て来た"黒潮の海"
美ら海水族館の目玉である超巨大水槽には悠々とジンベエザメが泳いでおり、その迫力は圧巻で思わず声を上げる
「わぁー!!凄いですね!!」
「うん」
「……この水槽が壊れたら大変ですよね……死ぬ自信しかない」
「………沙夜子って馬鹿だよね。」
「……え、返しおかしくないですか」
「沙夜子の考えてる事が解らなくなるよ」
「……私もイルミさんが何考えてるか解りませんけどね」
「沙夜子に悟られたら俺も終わりだよ」
「……え、そんなに……」
大水槽を前に私は謎の敗北感を味わった
妙にムカつくので力一杯彼の手を握りしめたが彼には微塵も効かなかった様でやんわり握り返されてしまった