第96章 水族館と手の温もり
しかし繋いだ手が離れてしまうのが嫌だと思ってしまうのは我が儘だろうか……なんて考えながら見上げれば彼の真っ黒な瞳に視線を奪われてしまった
「大丈夫、此所で待ってるから行っておいで」
優しい声色でそう言った彼は私の背中をそっと押すと僅かに微笑んだ
人波に流されるまま前へ進んだが彼が気になり振り返る
彼は宣言通り待ってくれていた
その表情が余りにも穏やかで切なくなったのは私の気のせいだろうか
水槽にいるヒトデやブニブニとしたナマコを一人触りながら、はたと気付く
(…………一人やと楽しくない……)
私は暫くナマコを握りしめた後に手を洗い彼の元へ帰った
「何が居たの?」
「ヒトデとナマコです!ヒトデって言うても色んな種類がいてたけど皆触り心地は一緒で面白いですよね!ナマコはプニプニしてて食べる時あんなにコリコリやのにスライムみたいで気持ち良かったです!」
「ふーん」
彼と会話を交わして初めて楽しい物になった事に気が付いてなんとなく腑に落ちた
自然な所作で掬われる様に繋がれた手に彼の体温が広がる
「手冷えてる」
「洗ったからですかね」
「そう」
会話はたったの其れだけでも繋がれた手は楽しそうに揺れた