第92章 閉じ込めた青
「良いよ」
すんなりベンチに向かう彼に私の意図が伝わっているかは解らないがなんとか逆ナンを回避する事が出来た
「ソフトクリーム食べたいんでしょ。俺買ってくるよ」
「えっ私も一緒に……「良いから沙夜子は待ってて」
「……ありがとうございます」
「何味?」
「紅いも………」
「ベニイモ……解った」
ベンチに到着するなりそう言った彼は紅いもという言葉に小首を傾げると踵を返して売店へ向かってしまった
地元では見慣れないガジュマルの木の木陰は強い日射しを遮り爽やかな風だけが吹く心地好い場所だ
しかし、観光客の沢山居る方向へ離れて行く彼の背中から視線を外せない私はただ落ち着かずにソワソワと身体を揺らす
(お願い………誰にも逆ナンされませんように………っ!!!お願い………)
祈るような気持ちでただ彼を見詰める
彼は両手にソフトクリームを持つと振り返り真っ直ぐ私の方へ歩みを進めた
その時だった。
彼に駆け寄る女性の姿に嫌に胸が騒ぐ
女性は三人連れで彼を取り囲みニコニコと話し掛けていて思わず立ち上がった私は今にも彼の元へ駆け出しそうになって立ち止まった
彼は彼女達を軽くあしらうと真っ直ぐ私を見据えて此方に歩みを進めたのだ
「っ………」
何故か息が詰まった
涙が溢れそうな程嬉しかった
納得いかないといった表情を浮かべて此方を見遣る女性達を背に私の元へやって来た彼は事も無さ気にソフトクリームを差し出した
「はい」
「あ、ありがとうございます」