第91章 出発の朝
隣を見遣れば彼は長い脚を組んでいて
「イルミさん!」
「ん?」
気だるげに窓の外を眺めていた彼は私の呼び掛けに此方を向く
「楽しみですね!始まりましたよ!」
「………そうだね」
彼は溜息交じりに答えるとまた外を眺めた
通常通り無表情だった彼だが何処か引っ掛かる声色にモヤモヤとしてしまう
「………イルミさんは楽しみじゃないですか……?」
言葉にしてからはっとした
ウザかっただろうか……彼は何の気なしに返事をしたのかもしれない
其れにいちいち反応を示す相手を鬱陶しいと感じたとしてもおかしくはない………
即座に後悔した私だが真っ直ぐ合った視線を外さず見ていると
「楽しみだよ」
彼は表情は変えず優しい声色でそう伝えてくれた
「良かったぁ………!!海が綺麗ですよ!!」
安堵の笑みを浮かべる私に海が綺麗なのは良いねと言った彼は実に穏やかな表情を浮かべていて
同じ気持ちを共有している喜びに胸が綻んだ
どんどん流れる街並みは高速を抜けて空港特有の景色へと変わる
タクシーを降りた私達は空港内の待ち合わせ場所に向かった
待ち合わせ場所には既に到着していたクロロさんの姿
私達を見付けて爽やかに手を振る彼に私も手を振り返しつつ思わず早足に成る
「おはよう。久しぶりだな」
「おはようございます!お久しぶりですね!」
整った顔に微笑みを浮かべた彼は実に美形で私の直ぐ後ろを歩いていたイルミさんの存在も相まって非常に目立つ