第91章 出発の朝
9月14日
いよいよ待ちに待ったドキドキの旅行当日
私は髪型のセットからバッチリメイク迄自身のベストを目指し出発の三時間前には起床したので朝方の三時半には起きていた
規則正しく静かに呼吸を繰り返し大きな身体を丸めた彼を起こさぬ様に一回目のアラームで目を覚ました自分を誉め称えたい
普段15分程で終えるメイクを1時間掛けて丁寧に仕上げる
私がメイクを終える頃に鳴ったアラームに僅かに唸りながら起床した彼は暫くぼーっと布団から出る事無く私を眺めた後に歯磨きに取りかかった
私と彼は生活を共にしているとは言え洗面所での行動が被る事は無いのだが
タイムリミットがあるので私も髪のセットの為に洗面所へ行く
「おあよ」
「おはようございます」
歯ブラシを咥えたままの彼はぼんやりとした顔で私を見下ろし壁際に避けてくれた
何時なんどきでも挨拶をしてくれる彼はやはりお育ちが良い
鏡越しに彼を見遣ると彼は気だるげに壁にもたれ掛かりながら歯を磨いていて
まだまだ覚醒していない虚ろな瞳と目が合う
まだ彼を全然知らなかった以前の私には想像も付かない彼の気の抜けた姿
パジャマとして着ている弟のお古のTシャツとジャージは首元が伸びきり魅惑的な鎖骨が覗き日頃意識しない様に努めているが覗く胸元は随分と筋肉質でドキドキしてしまう
普段の凛とした雰囲気は一切無く壁に体重を預けて歯を磨く姿は何より特別に思う
彼がたまたま私の部屋を選んだが故に見られる超貴重な瞬間を密かに噛み締めていた
何故か視線を外さない彼に朝から赤面しつつコテを手に取ると
肩を叩かれて洗面台を譲る
彼はうがいを済ませると洗面所を出て行った