第89章 バーカウンター
良いニュースとは私がイルミさんに気持ちを伝える事だろうか……
もしも、それも百歩譲って想いが実ったとしてヒソカさんにとって何かメリットがあるのだろうか
単純に応援してくれているとは考え難い………
ぐるぐると回る思考とは裏腹に弾んだ母の声
「ほんまに会えたー!!めっちゃ嬉しいー!!!ありがとう沙夜子ー!!!」
「いーえ!お母さんが喜んでくれて良かったわ!」
本当に良かったと思う
母が、明日から生きて行く希望になった、と笑うので
「大袈裟やわ!」
と笑ってしまった
ヒソカさんの言葉は魅惑的で意味深だった
考えれば考える程気持ちは揺れる
しかし、母と過ごしたバーでのお腹が痛い程笑い合った時間は最高に楽しかった
彼の言葉もそんな思い出と共に胸に仕舞おうと決めた
『迎えに行く』
と言った彼は連絡すると実家前にて待つとの事だった
ゆっくりと母との時間を楽しめる様に配慮してくれたのか
その気遣いが嬉しかった
____________"
「母も喜んでくれたし、楽しかったですよ!」
「そう」
また一緒に行こう、と手を振った母の笑顔を思い出す
せっかくヒソカさんから名刺を貰っても母は私以外と訪れる事は無いだろう
だからこそまた行こうと素直に思った
頬を撫でる夜風は8月に比べて随分心地好い物に成っていて
ぎゅっと胸が締め付けられる
「イルミさん」
「何」
「お迎え……ありがとうございます」
「別に」
『それは随分愛されてるんだね、沙夜子も彼を好きなんだろう?気持ちは伝えないの?♦️』
ヒソカさんの言葉が何時までも頭から離れなくて
そっと見上げた彼の儚くも美しい横顔を何時までも眺めていた