第88章 フルコースは投げられて
得意気な彼の瞳が輝く
確かに今夜は素敵な思いを沢山させてもらった
しかし…………見た目のインパクトが大き過ぎてたじろいでしまうのは私だけでは無い筈だ………
「召し上がれ」
何故…………何故…………今日に限って男前にコース等………いや、いつも男前なのだが………これでは断る選択肢は無いでは無いか………
「い………いただきます」
私は震える手でパイを一口口に含んだ、途端に
……………襲う嘔吐感……………
(ヴああああああああああ!!!!なんやこれ!!!!!!今までの料理美味しかったから油断したぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!)
思わず涙が滲む……口内にとんでもない爆弾を抱えた私は懸命に生臭さをアルコールで飲み込んだ
「どう?」
追い討ちをかける彼にコクコクと頷きつつ涙目で笑顔を作ってみせる
彼は僅かに眉を反応させた後にゆっくりとした所作でニシンのパイを口に運んだ
そして……………
瞬時に小皿へ吐き出した
「まっず………。よく食べたね」
「あはは………」
乾いた笑いを漏らした私達の間には嫌な沈黙が流れた
ちゃぶ台に鎮座する巨大なニシンのパイの威圧に飲まれそうだったその時
バリンと派手な音が耳に届く
ちゃぶ台から忽然と消えたパイ
私は咄嗟に叫んだ
「イルミさんっ!!!!!」
彼はベランダから顔を出すと無表情に
「あんな物は排除した方が良い」
と言い放った
後日【生魚の皿を投げるイタズラ】と回覧板で流れてきたのは言うまでも無い