第88章 フルコースは投げられて
黒胡椒と酒で軽く炙られたサーモンでチーズを巻きオリーブオイルには香り付けのバジルがちりばめられていた
「これ、イルミさんが……?」
「うん。それと、これね」
「え…………」
ちゃぶ台に並べられた小さくて上品な料理と共にグラスに注がれたのは高そうなコルクを抜いた赤ワインだった
「せっかくだしね」
「…あ、ありがとうございます」
乾杯、とグラスを鳴らして再びキッチンに消えた彼
私は小さくいただきますと言って出された料理を口にした
瞬間に広がる香りは正にレストランの味で驚きの余り瞳を大きく見開く
「美味しい!!!美味しいです!!!」
「口に合って良かった。………オードブル出来てるんだけど運んで良い?」
「……え、はい!」
モグモグと私と同じ様にサーモンを頬張りつつ言った彼に声を張ると彼は次いでお皿に盛られた前菜を運んで聞き慣れない言葉を吐く
「どうぞ、海老のグラチネ」
「グラチネ……?」
「食べてみて」
「あ、はい……いただきます」
グラチネと言われたそれはグラタンの様な風貌で、一口含めば海老の香りにチーズが絡む
しかしサクサクとした食感がアクセントになり非常に歯触りが良く赤ワインと良く合う
「イルミさん………シェフになれますよ………美味しすぎる………」
「成らないけどね」
彼は私の様子を伺いつつグラスを傾けるとまたキッチンに消える
正直彼の手料理がプロ過ぎて私は戦慄していた
(玉子………ちゃんと割られへんかったやん………)
私の日頃の手料理等本当に庶民的で自信が喪失するレベルだ
私は大好きな彼の手料理に舌鼓を打ちグラスを傾け幸福に頬を緩ませる
なんて贅沢な時間だろうか
手を火傷して良かったと心底思ってしまう
テレビから流れる名作をぼんやり眺めながら二杯目を飲んでいると運ばれてきたパンプキンスープはクリーミーかつ濃厚で
白身魚のポワレと言って運ばれてきた鯛料理は絶品だった
次いで
「ソルベにどうぞ」
「ソルベ……?」
「お口直し」
「え………」
「流石に手作りは無理だったからガリ○リくんほぐした」
「まさかの!」
透明なグラスに入った水色の其れは上にミントが添えられてとてもガリ○リ君とは思えない見栄えだった