第85章 夏の終わりの彼と私
「え……?」
真っ直ぐ此方を見詰める彼の表情からは思考を読み解く事は難しい……
突然何故そんな提案をしたのかは多分昼御飯の際に話した会話内容が関係しているのだろうが
だからと言って何故彼自ら提案してくるのだろうか……
確かに以前から彼の髪の毛をアレンジしてみたい願望はあるのだが……素面でそんな事をお願い出来る筈が無いと思っていた
結果酔った勢いを借りて知らぬ間に実行していた訳だが………
彼が何を思い発言しているのか真意が解らない
(もしかしてエスパー………?)
何て困惑していると
「別にしたくないなら良いんだけど……。ずっとやってみたかったって騒いでたから覚えて無いんなら、と思っただけ」
「!!!」
どうやら私は彼自ら提案して来る程相当騒いだらしい………
しかし、その旨が伝わってしまっているのならこの状況はチャンスだ
今後私から言い出してヘアアレンジ出来たとしてもきっとその時も泥酔して記憶は消し炭なのだろう
其れならば今やってしまって大切な胸のメモリーに仕舞っておきたい
「やります!!!」
心の決まった私は嬉々として言葉を発し
即座に様々な道具を取り揃えて背中を向ける彼の背後に陣取った
まずはポニーテール!彼は緩く後ろに纏める事はあってもポニーテール姿は拝見した事が無かった
是非とも拝みたい……!!!!
「失礼します」
「ん」
いざ髪に触れると柔らかな手触りで指の間を流れ黒々と輝く
本当に見た目通り艶やかなストレート
「ほんまにさらさらですね!生まれつきですか?」
「うん」
会話を交わしつつひとつに纏め様と伸ばした指先が誤って彼の耳に触れた
途端に甦る昨夜の出来事
出来事と言うには酷くあやふやな其れは夢だったのかもしれない………だけどリアルな温もりが腑に落ちない………
思わず溜息を漏らすと高く持ち上げた髪からふんわり彼の香りが鼻を掠めて胸が跳ねた
綺麗な髪や中性的な顔立ちからは想像も付かない男性の香りにクラクラしてしまう
彼から私の表情が伺え無いのが幸いだった
かき上げた髪を高い位置で纏める
普段見えないうなじがチラリと見えて、うなじがセクシーなのは女性だけの特権では無いのだな……なんてぼんやり考えたりした