第84章 熱い身体とかき氷
彼は言われるがままに口を開く
何度か彼に一口差し出す機会が今迄あったのだが伏し目がちな瞳と緩く開かれた唇がやけに色っぽく
私の顔は先程よりも熱を帯びる
「ん。美味しいね」
彼が一瞬見せる妖艶さは反則だと思う
普段無機質で淡白が故に際立つセクシーさは凄い威力だ
再び自身のかき氷を食べていた彼だが私がそのままの状態で固まっているのに気が付いて私の顔を下から覗き込んだ彼は上目遣いで私を射抜いた
わざとらしく細められた瞳は私の両眼を捕らえて離さず余裕な仕草で頬に添えられた彼の指は熱を持った私の頬に冷たい感覚を教える
戸惑いから落ちたスプーンの金属音が何処か遠くに聞こえて
騒がしい胸の音だけが耳に煩い
「沙夜子、食べなよ」
かき氷を進めているだけの台詞の筈が何処か艶かしく響いた
「食べさせてあげようか?」
ニヤリと歪んだ唇をただ見詰めていた私だったが言葉の意味をやっと飲み込んだ時
私は凄いスピードでお盆に落ちたスプーンを拾い上げてかき氷を頬張った
彼にされるがままにかき氷を完食させられたならば私は食べ終える前に絶命していただろう
無我夢中で荒々しくかき氷をかき込む私の姿に隣で漏れた溜息に
(いやいやいやいや、はぁ………じゃないし!!!私の方が、はぁ……やし!!いきなりなんやねん!!!ドキがムネムネで殺す気か!!!!)
激しいツッコミを心の中で入れた
その後私達はやはり目的地だけを目指す彼に引かれて
途中グリコの看板や食い倒れ人形を指差したが彼は興味無さ気に生返事をしただけで立ち止まる事は無かった