第82章 天袋から広がる話
「大丈夫ですか?!」
「うん」
不安から大きく出た声に対して単調な返事と共に彼は椅子から降りてきた
凡人なら脳震盪でも起こしそうなものだが顔色ひとつ変わらない彼の様子から本当に平気な様で胸を撫で下ろす
「これ?」
「あ、はい!」
そうだ、驚きで忘れてしまっていたが彼にプレゼントしたかった図鑑は見付かったのだ
私は床に乱雑に散らばった図鑑を纏めると彼に手渡した
動物は勿論の事、魚、鳥、虫、植物、乗り物、星、宇宙……等々沢山の図鑑
暫くは暇潰しになるのでは無いだろうか
彼の様子を伺うと予想を越えて嬉しそうに見えて頬が緩む
「ありがとう」
「いえ!こちらこそ探すの手伝って貰ってありがとうございました!」
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シャワーから上がると彼は早速図鑑を開いて食い入る様に見ていた
無表情ながら何処かあどけない横顔に笑みが溢れる
昔沢山読み返していたせいで随分ボロだが、彼が喜んでくれる事が心底嬉しかった
………しかし…………水を差す様で悪いがコスプレの交渉を済ませる使命が済んでいない事を私は忘れていなかった
「イルミさん!」
「ん?」
視線は図鑑を捉えたままの彼
「ハロウィンのコスプレ……ほんまに見たいんです!!!お願いします!!!」
私はきっちりと頭を下げた
そういうイベントは嫌いそうな彼の事……断られてしまうだろうか……等と考えていると
「良いよ」
あっさりと了承を得て思わず声を上げて喜んでしまった
「ありがとうございます!!今からほんまにめっちゃ楽しみです!!!」
「但し、沙夜子もコスプレしてね。其れで対等でしょ」
「……………っ!!!」
図鑑のページに視線を走らせながら言い放たれた言葉に楽しみだったイベントは色を変えて奇祭に変わる
「善処します………」
「決定だから。」
精一杯の抵抗をバッサリ切った彼の言葉に抗う術を誰か……………どうか………………教えてほしい……………