第82章 天袋から広がる話
8月のある金曜日の夜
お盆も過ぎてただ仕事をこなしている中で彼と過ごす時間は私が最も心休まる癒しのゴールデンタイムである
彼は普段通り座椅子に座りテレビを見ているのだがそんな横顔をぼんやり眺めていて
ふと図鑑なんかに興味は無いだろうかと思い立った
彼の好むテレビ番組の趣向はよく解らないが危険生物ランキング!なんてものには瞳を輝かせている印象がある
それに情報収集していないと落ち着かないと話していた彼にとって図鑑は良い刺激になるのでは無いかと考えた
確か押し入れの天袋に昔祖母が買い揃えてくれたあらゆるジャンルの図鑑があった筈だ
随分前に発売されたものだし今の図鑑と比べたら情報は古いだろうが読書好きの彼が暇潰しする嗜好品としては申し分無いだろう
私はひとり納得すると冷蔵庫と壁の隙間からパイプ椅子を取り出し彼の背後に在る押し入れに向けてセットした
「なに」
彼は私がガサゴソと見覚えの無いパイプ椅子を取り出したのを見守った後に呟いた
「イルミさんにちょっとしたプレゼントです!」
「……この椅子?」
「違います。この上にあるからちょっと退いて貰えますか?」
「………」
彼は素直に立ち上がると座椅子をずらして場所を空けてくれた