第81章 サスペンスは突然に
やっと到着した東尋坊
家族で訪れた際、高い断崖絶壁に激しく打ち付く水飛沫が真っ白で本当に綺麗だと思った思い出がある
勿論現地を実際に見ているのでそのイメージを頭に思い描いていたのだが
到着した頃にはどんより分厚い雲が空を覆い、思い出とは随分違う印象を受けた
少し違うが彼も同じ様にイメージとのズレを感じたらしく突然現れる断崖絶壁を想像していたのか東尋坊にたどり着く迄にずらりと観光名所らしく並ぶ沢山の露店や海鮮の店に瞳をくりくりさせている
「ふーん。観光地なんだね」
「はい」
連休最終日だと言う事も相まって沢山のカップルや家族連れ、年配夫婦等で賑わう通りは違う意味の名所でもある事等全く感じさせない活気に溢れている
生憎の曇り空だが彼と訪れる事に意味があり、晴れていないと全てが台無しという訳では無い………と、自分に言い聞かせながら残念に思う気持ちを払拭した
海鮮丼のお店やお土産屋さんには目もくれず肩で風を切り歩く彼の隣に並ぶ
私が思うに彼は目的に向かって真っ直ぐ前進する節があり、私が他も見て回りたいと声を掛ければすんなり付き合ってくれるのだがその辺の気遣いは皆無だ
チラリと隣を見遣ると真っ直ぐ前だけを見据えて歩みを進める彼に沢山の視線が刺さっていた
流石歩く美術品…………
彼は気に止める様子も無く普段と変わらず堂々としたもので羨ましい
私は彼の隣に居る事でついでに注目を浴びてしまうのだが……凡庸な私は未だに慣れる事は無い………
気にしないで居られるコツなんかが存在するのなら是非とも伝授して頂きたい
「……イルミさん」
「ん?」
「あの…………人に見られるの嫌じゃないですか……?観光地とか行くとよくあるじゃないですか……」
「んー、そうだね。……正直不愉快だよ?」