第80章 吹く風は夏の色
「東尋坊ってそもそもお坊さんの名前なんですって、まぁ昔話なんですけどお寺にめっちゃ性悪なお坊さんがおって色んな人に迷惑かけまくってて、最終的に恋愛の縺れでライバル泥酔させて崖から突き落としたんですよ………確か」
「ふーん」
間延びした返事
昔話では彼の興味を引くことは出来なかった様だ
残るキーワード…………この言葉で彼を引き寄せる!!
「天然記念物なんですよ」
「へぇ」
彼と出会った最初の頃ならば全く気付かなかった僅かな変化
彼は淡白な態度を示しながらも興味のある物を上げると声が少し低くなるのだ
そして今回のこの言葉は彼に魅惑的に響いた様だった
(………せっかくやったら興味持ってもらった方が楽しんで貰えるやろうし……)
彼が突然連れ出してくれたからこそ見れた景色、考えただけで鼓動は楽しく速度を増す
海岸線を進む車の窓を開くと
真っ青な空から吹いた風は夏の匂いを運んでくれた
風を浴びて馬鹿みたいにはしゃぐ私は
「全く………沙夜子は子供だね……」
彼の優しい皮肉に満面の笑みを返したのだった