第80章 吹く風は夏の色
「…………沙夜子……」
彼の声に意識が浮上する
私は気付かぬ内に夢の縁をさ迷っていた様だ
重たい瞼を持ち上げると目の前に広がったのは生き生きと繁った緑を湛えた木々と何処までも続く青い海、浮かぶ大きな入道雲が映える快晴は荒々しい波しぶきを一層輝かせていた
「うおー!!!」
美しい海岸通りに思わず声を上げる
「福井県だよ」
「福井県!めっちゃ綺麗!何海ですか?」
「日本海」
力強い海原とは裏腹に優しい声色で答えた彼はカーブを抜けた先の路肩にゆっくりと車を停車させた
私達の他にも駐車している車が数台あり
「降りよう」
と言った彼を追う様に私も外へ出た
全身を包む蒸し暑さに夏を体感する
吹き上げる海風は強く汗を拐い
サングラスを外した彼は遠く水平線を見詰めていた
「テレビ番組で見たんだ」
「そうでしたか!」
「夏の内に来ておきたくてさ」
「海、良いですよね!」
「うん」
彼が見たかった景色、其れを一緒に眺められる贅沢を大切に胸に仕舞うと暖かい気持ちになった
「海の次は何処行くんですか?」
「……うーん。実はノープランなんだよね」
視線を空に浮かせて頭を掻く彼の様子から本当に他には何も考えていない事が伺える
私は昔家族で訪れた際の福井県旅行を思い返し
「福井県………やっぱりここは東尋坊ですかね!!」
観光名所の名を上げた