第79章 鳥が一羽
彼はと言うと結っていた髪を下ろしつつ座椅子に腰掛け私が口を付けるのをじっと待っていた
真ん丸に開かれた無感情な筈の瞳が何処か期待に揺れている様に見える
「………い、いただきます」
どう考えても調理中の音が聞こえなかった…………流れる汗は暑さからでは無く明らかな恐れからだ
躊躇しながらも一口頬張る………と
程好い具合にトロトロの玉子と鶏股肉が炊きたてのご飯に絡み食欲をそそる香りが鼻から抜けた
「っ……!!!美味しいです!」
瞳を輝かせたのは私だった
正直私は最後の晩餐を覚悟して食べたのだが想像を絶するハイクオリティーな出来栄えに無我夢中でご飯をかき込んだ
お味噌汁も言わずもがな…………綺麗に完食した
「ごちそうさまでした!」
「はい」
「イルミさん凄いです!ほんまに何でも出来るんですね!」
「まぁね」
得意気な声を背中に洗い物の為にキッチンに立つ
流石はしっかり物の彼だ
調理の後片付けもきっちりと行われていた
大満足で笑顔を浮かべる私
得意気な彼
シンクにひとつ落ちた八つ裂きにされた者の羽根
私は瞬時に悟った………
彼は狩りをして此所で捌いたのだと…………
恐る恐る開いたゴミ箱には赤を湛えた小さな袋
「ぎゃああああああああああ!!!!!!!!!」
震える足は役に立たず腰を抜かした私は茶碗を手放し
床に落下した皿は粉々に砕けた
……………その羽根が何色だったのか………果たして食した肉は何鳥だったのか……………全ては私達のみぞ知る……………