第79章 鳥が一羽
ちょっとした仕返しの筈が自分の首を締める結果になってしまった事を深刻に後悔して私は暫くクッションに顔を埋めて動けなかった
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「沙夜子はキッチンに入らないで」
言い放った言葉から足を進める事が出来ず踵を返したのはこれで何度目だろうか
彼は短時間で買い物を済ませて近所のスーパーの袋を下げて帰宅した後に髪をしっかり結ぶとキッチンから離れなくなってしまった
何を作る気なのか…………
情報は袋から飛び出たネギのみで予想するにも情報不足
果たして食べられるレベルの料理が食卓に並ぶのかも疑わしいこの状況でキッチンへ引き寄せられてしまうのは生命の危機を感じる以上致し方無いと思う
しかし彼は頑なに拒むのだ
私が彼の手料理を食べたいと口にしてしまったばかりに…………
(お願いします………意地悪してしまった私が悪いから………食中毒で死ぬのは嫌です……)
私は調理中とは思えない何かを八つ裂きにでもしている様な物音を聞きながらただ真顔で鎮座して彼を待った
どれくらいそうしていたのか出汁の香りにお腹が鳴る
「………」
キッチンへ目を向ければ彼が無表情に此方へ料理を運ぶ瞬間だった
ただならぬ緊張感に思わず正座した私の目の前に並べられたのは
「………親子丼………?」
「うん」
「美味しそう………」
「召し上がれ」
ちゃぶ台の上には立派な親子丼とお豆腐のお味噌汁が並べられ香り、見た目共に非常に美味しそうだ