第79章 鳥が一羽
録画していたテレビを消化しながらおやつにと出したひとくちバームクーヘンは私が悠長に2つ目を食べ終わる頃に全て彼の胃袋に消えていた
「………」
「………」
次を食べようと探った手は空振りをくらいガサガサと袋を動かしただけだった
「……私……もっと食べたかった」
「………」
沈黙の彼が寄越した視線が横顔に刺さる
特段楽しみにしていた訳では無いのだが表情を伺っている様子の彼が面白くてしかめっ面を作ってみた
「……ごめん」
単なる好奇心だったのだが余りにも申し訳なさそうな小さな呟きに内心ニヤニヤしてしまう
普段私をからかう彼に些細ながら仕返しを出来るかもしれない………
私は彼を見る事無くすっからかんの袋に視線を落とした
(……完璧っ!!!めっちゃ完璧やわ私!!!)
内心勝ち誇りながら満足感に浸り、ネタばらしを試みていると
「同じの買ってくるよ」
淡々とした声が耳に届いた
(待って………違う………別にもうバームクーヘンいらんねん………)
ネタばらしを急遽変更し私は咄嗟に言葉を紡いだ
「……バームクーヘンより、イルミさんが作った夕飯を食べたいです………」
(………!?!?)
内心かなり驚きである
ノープランで発した台詞は以前の苺嫌いになってしまった事件を再び発生させない為に脳を通さずに出た防衛本能だった
冷静に考えてみれば彼の手料理を本当に食べたいか否か……答えは解りきっている
何故ならば料理番組を見ていたにも関わらず彼は卵をまるまま砕いたりするくらい天然さんなのだ
(………何が作れるって言うん………怖い……………)
冷や汗がじわりとこめかみに浮かぶのが解った
咄嗟に否定しようと口を開いたその時
「解った」
短く答えた彼は立ち上がり取り消す間もなく出て行ってしまった
「………うそやん………どうしよう………」
パタリと閉じた扉をただ呆然と見詰める