第79章 鳥が一羽
布団から脱した彼が洗面所で歯を磨いている気配を背中に感じつつ起き上がるタイミングを見計らう
入念に歯磨きを済ませた気配に起き上がろうとするがパサリと落ちる布の音に踏み留まる
(………お着替えタイムですか……?!うおおおおおおおおおッ!!!……うん……起きれやん………無理……)
ゴソゴソと着替える物音に狸寝入りを決め込んだ私は瞼を固く閉じた
ペタペタとフローリングを歩く音が間近に迫り早まる鼓動を抱きつつもじっと息を潜めていると不意に頬に触れる感覚にビクリと身体を反応させてしまった
「………」
「………」
頬にやんわりと触れたのは彼の指先で、頬を伝い首筋に移行するその手付きは優しくも確実に脈打つ血管を辿り背中がゾワゾワと粟立ち瞬時に体温が上がる
瞼を固く閉じて耐えていると暫く首筋を往復させて静かに離れて行った
いとも容易く私は殺されるのだろう…………ぼんやり脳裏に浮かんだ言葉とは裏腹に恐怖心を抱かない事こそが酷く恐ろしく感じた
理由も無く始めた狸寝入りだったが彼には起きていると完全にバレてしまっただろう………
あれだけ露骨に身体を跳ねさせてしまったのだ
バレていない筈が無い
気まずさからまたもや起き上がるタイミングを見失いじっと寝たふりを続行していると裸足の音は離れて行った
自然と身体に込めた力が抜けたその時
「いつまでそうしてるつもり?」
溜息混じりに発された言葉に私は即座に飛び上がったのだった