第77章 海の色
母と祖母とゆったりと露天風呂に浸かりながら思いを馳せるのは彼の事だった
暖簾の別れ際も何時もの調子で無表情だった彼、内心何を考え何を思ったのかは解らないが苦手には違い無いだろう…………
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湯煙が視界を掠める大浴場
男三人肩を並べて汗を流す
「めっちゃマッチョやなー。スポーツしてたんか?」
「特には。」
「プログラマーですよね?力仕事ちゃうのに凄いっすね!」
「ありがとう?」
他人に肉体を誉められた事は無かった
しかし仕切りに感心する二人を彼は不思議に思った
辺りを見渡せば贅肉を蓄えた中年男性の姿も有る
自身を誉める二人だって自身には劣るが無駄な肉は付いておらず引き締まった身体をしている様に思う
まず裸で向き合う文化の無い彼には新鮮に思えた
「髪長いなー切らんのか?」
彼女の父は自身の長髪が気になるのかそう言われ特段拘りも無く切るのも面倒だからと放置していた髪だがそろそろ切るべきかと考える
「うーん。まだ考え中です」
「沙夜子は気に入ってるんじゃないっすか?イルミそっくりやし!」
「そうかな……」
「多分ですけど、」
「そのイルミってキャラクター……そんなに好きなの?」
「めっちゃ好きですよ!」
「そっか」
彼女の弟は彼女の様に屈託無く笑った
彼女の弟が言う"好き"とは何だろうか。キャラクターとして好きとは絶対に届かない憧れと似ている
彼女の前に自身が現れた今自身に対してどのような感情を抱いているのだろうか
自身の抱く好意と違いはあるのだろうか
先程彼女と眺めた同じ海を眺めながららしくない事を考えたりした
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其々湯を上がり夕飯を取る為に広間へ降りた
珍しく長湯をした父と弟に連れ立って出て来た彼はやはり変わらず無表情だったがやはり苦手な事に挑んだ後だからか何処かぼんやりしている様に見えた