第76章 深緑の窓
余程気になるのか窓を見詰め続ける彼の横顔を眺めながら
線香と山の緑の香りを胸一杯に吸い込んだ
木々は深緑に色を付けて元気に輝いている
「よし、帰ろうか」
父の声に各々荷物を持ちお墓を後にしようと敷地を出るが彼は何故か窓に近付く
不思議に思いつつ様子を伺っていると彼は窓に向かい軽く会釈してから歩き出した
「………イルさん…………?」
彼の行動はまるで窓の中に何かが見えている様で困惑してしまう
彼は私の声掛けに一瞬の笑みを浮かべた後直ぐに無表情に戻った
「何でも無いよ。行こう」
そう言って私の腰に腕を回して彼に押される様に歩き出した私達
振り返って見た窓には何も写っていなかった。
頭に過った祖父の笑顔を胸に抱きながら私達はお墓を後にした
___________"
再び車に揺られてそのまま家族旅行に向かう
目的地は香川県
正直彼にこの話を持ち掛けた時絶対に首を縦にふらないと思っていた
他人との集団行動を好まない傾向のある彼が気を遣いながら一日以上を共に過ごす事に難色を示さない訳が無いと思っていたのだが……
彼は「家族は大切にしないとね」と淡々と言って退けた
彼の中での家族というものは随分歪に思うが、大切に思う気持ちは大きく、その優しさを他人の家族にも向けられる事に驚いたりした