第76章 深緑の窓
私は慌てふためき彼の美しい顔に傷が出来てしまったのではと謝り倒したが彼は全くの無傷で平然としていた
(……………そりゃそうか…………地面素手でめっちゃ穴開けたり出来るんやもんな……………)
「すみません……」
「うん」
彼は全く気にしている様子も無く車から降りてしまったので私も後を追って車を後にした
徳島県の山間に静かに佇む墓地は夏場のアスファルトの街よりも涼しい風が吹く
祖父は生前お墓に力を入れており墓石は役3mにも及び暮らせるのではないかと思わせる敷地に石造りのベンチ迄有り墓掃除と一言に言ってもなかなかに大変だ
隣接する様に茂った竹林から葉っぱが大量に落ちて敷地内に積もる
私や母は其れを掃き、父、弟、イルミさんはバケツに水を汲んだり墓石をタオルで拭う等の大変な作業を担当してもらっている
祖母は花壇の土いじり
何も言わずに素直に作業に勤しむ彼に有り難く思った
彼が居る事で普段より随分早く終わった清掃に額の汗を拭う
皆でお線香を上げれば終了なのだが彼はじっとお墓を見詰めているので疑問に思い声を掛ける
「窓」
彼の言った窓とはうちの無駄にデカイ墓にはマジックミラーになった窓がついており祖父は生前、死んだらあの窓から皆を見ている、と話していた
その事を説明すると間延びした声で「ふーん」と返ってきた