第76章 深緑の窓
普段運転を任せている為に運転席以外に乗車する彼はなんだか新鮮に思う
凛とした姿勢のまま窓の外を眺める彼は一体何を考えているのだろう………
(ミステリアスイルミん………見目麗しい………なんて整ってらっしゃるんやろう………ほんまにお人形みたい………なぁ、婆ちゃん………)
なんて考えていられたのも僅かな時間で、私は完全に車酔いしていた
車の後方は振動が諸に伝わり込み上げる物と必死に格闘する
乗車前に与えれるがままに祖母から大福を貰いまんまと食べてしまったが今と成っては込み上げる甘さに後悔しか無い
「……………」
「……大丈夫?」
「……あはは。全然大丈夫じゃない………」
「横になる?」
彼は乗り物に強いらしく顔色ひとつ変えずに小首を傾げる
遊園地の際もそうだったが私が何も語らずとも彼は私の異変を察知してくれる事が多い
ぼんやり生きている私と違い彼は洞察力に長けているのだろう
なんて最もらしい事を考えるが具合は悪化するばかり
眠ってしまうのが一番だが厄介な事に座ったまま眠る事が出来ない質で彼の言葉通り横になりたいとは思ってもそうすると彼に膝枕をお願いする事になってしまう………
暫く見詰め合った私達だったが首を横に振ろうとしたその時
彼に引き寄せられて強制的に彼の太腿に頭を乗せられてしまった
彼の太腿はやはりと言うべきか引き締まっており硬く具合の悪い人間に対して少々乱暴な様にも思えたが
具合の悪さも一瞬ぶっ飛ばす衝撃に騒ぐ胸が煩くて仕方がない