第76章 深緑の窓
8月13日
世に言うお盆
私も彼も世間一般を漏れず休暇に入り二人して正座している
何故なら私の実家に居るからだ
小振りな仏壇に手を合わせるとお線香の匂いが鼻を掠めた
私は祖父に思いを馳せる
隣の彼が何を思っているのかは解らないが形式的に私を真似ているのだろう
仏壇のある和室には先祖を祀る為の割り箸の刺さったなすびときゅうりが置いてあり、この歳に成るまで実家で見た事も無かった物が今年突然現れたのか考え込む
彼もなすびときゅうりを見付けて怪訝に眺めている
「何これ」
「えーっと………確か馬と牛に見立てて先祖の幽霊が霊界から帰ってくるのに乗る………みたいな」
「小さ過ぎる。乗れないでしょ」
「………まぁ見立ててるだけなんで」
「ふーん」
しかし何故これが自宅にあるのか………不思議に思い母に問うと日本文化を知らないイルミさんの為に用意したそうだ
母も初めて作ったそうだがもう一生作らないと言っていた
仏壇に手を合わせた後車に揺られて目指すのは四国にあるお墓
父の運転、助手席に弟が座り二列目に母と祖母
二時間程で到着予定で
三列目の席に彼と二人腰掛けているのだが
彼は祖母にえらく絡まれていた
「髪が長いんやねー!お人形さんみたい!」
「どうも?」
「沙夜子ちゃんと何処で会ったの?!お仕事は?!」
興奮気味の祖母にも臆する事無くプログラマーです、なんてスラスラ答える彼に内心冷や汗をかきつつも気に入った様子で笑顔を浮かべる祖母に安心する
祖母はかなりの天然お茶目さんだが気難しい所もあり彼と反りが合わないのではと危惧していたのだが取り越し苦労だった様だ