第75章 男とのヒトコマ
私は再び下着入れに視線を落とした
…………まぁ無くなった所でピンクちゃんが勝負を挑む出番は無いのだし困りはしないので
あの日のカラスの同胞がイタズラで持って行ったのだろうと納得した様なしない様な感じで過ぎ行く日々にそんな事もすっかり忘れて平凡に過ごしていたある日
これで何度目だろうか
私は玄関を開いて声にならない悲鳴を上げていた
目の前で見た事も無い50代くらいの小太りの男性が踊り狂っている
私は瞬間的にパニックを起こした
(怖い怖い怖い…………!!!!誰ッ!!!!!!!!………しかも土足………ッ!!!!!)
パニックの余りどうでも良い事に迄驚愕してしまう
まごうことなくここは私の部屋の筈だ………
私は落ち着き無く狭い玄関で狼狽えながら怪しさしか無い男から視線を外せない
(何、何、何っ!!!!!!)
部屋に鳴り響く小太り男の謎のステップ音を聞きながら泣きそうになる
「…………あの、どちら様ですか………?」
蚊の鳴く様な震えた声で恐る恐る言葉を紡ぐと男はピタリと動きを止めて私の方へ近寄って来る
「…………な、………何…………っ………」
狼狽えながらも後ろ手でドアノブを探すが酷く震える手では探し当てる事が出来ない
冷や汗が背中を伝い、私は覚悟を決めた様にぎゅっと瞼を閉じた
……………また鳴り響くステップ音