第74章 嵐の街
ダブルフラットの個室はきっと同じ様な人達が駆け込んでいて満室
ダブルソファーの個室だが空いていた事は本当に幸いだった
ガタガタ震える肩を抱いて擦りつつ本当に申し訳程度だがハンドタオルを彼に差し出す
私をお迎えに来てくれたが為に彼までびしょ濡れになってしまったのだ
ハンドタオルとはいえ譲るのが礼儀だと思った
しかし
「要らない。」
「まぁ……心許ないかもやけど無いよりはましでしょう?」
「沙夜子が使いなよ。俺は平気だから」
「でも……」
「また風邪引くよ。本当に要らない。」
「…………ありがとうございます」
大人しく髪を伝う滴を拭う
しかし、服が乾かない事には体温は奪われるばかりで寒さは凌げ無い
自然と生命維持の為か小刻みに震える身体、真夏に凍え死ぬなんて御免だ
なんて考えていると
彼は隣でいそいそとTシャツを脱ぎ常備してあるハンガーに干し始めた
………正直かなり羨ましい………
冷たくまとわりつく洋服を脱ぎ捨てられるのならどれだけ体温を回復出来るだろうか……
不意に目が合い心臓が飛び跳ねた
薄暗い照明のせいで影が出来て美しい輪郭がはっきりと浮き上がる
半個室とはいえ区切られた此所は二人きりの小さな部屋の様に思わせて余計に意識してしまう
(…………寒い………ドキドキする……カッコいい……寒い…………)
混沌とした思考の中自身の肩を抱き寄せていると彼に声を掛けられた
「中何も着てないの?」
「え、………あーキャミソール着てます」
「じゃあ沙夜子も干しておけば?濡れた衣服なんて身に付けてるだけでリスクしか無い」
「…………」
私は素早くTシャツを脱いだ
陽気な黄色のTシャツにプリントされたにやけたアヒルが何とも憎い
恥ずかしく無い訳では無かった。
キャミソールを着ているにしろ彼の前で衣服を脱ぐという行為自体に抵抗があるし乙女心から行くなら赤面して羞恥の余り死に絶えてしまっている
しかし、意識して躊躇してしまった方が余程恥ずかしく思えた
彼は私の身体を案じて提案してくれたのだし羞じらう場面では無いと判断した
逆に戸惑いを見せてしまうと私の下心が明け透けになってしまう様で平然とTシャツを干した