第73章 親方とのヒトコマ
不思議に思いつつ見ていると
彼は徐にケージの扉を開き親方をちゃぶ台に出した
「え、危ない!」
「まぁ見てて」
ちゃぶ台は親方からしてみれば壁の無い高層ビルの様なものだ転落してしまえば骨折なんかのリスクが在る
彼に制止されて見ているもののヒヤヒヤして仕方がない
彼はクッキーを親方に見せる
親方はクッキーに気付き非常に可愛らしく2本足で立ち上がった
「可愛い………」
思わず漏れる本音
しかし彼が親方にクッキーをあげる素振りは見せない
もしかしてこうして意地悪をしているのかと口を開こうとした時
「回れ」
彼が言葉を発して押し黙る
そして私は目を疑った
親方は彼の言葉を理解しているかの様にその場でクルリと一回転してみせたのだ
そして頂戴!とばかりにまた2本足で立っている
「もう一度だよ、回れ」
言われるがままにもう一度回って見せる親方に開いた口が塞がらない
「どう?」
なんて私の反応を伺いつつ親方へクッキーを手渡す彼に私はとにかく凄い!を連呼した
「どうやって!!なんで!!」
「動物番組なんかを見ていると犬は芸をするでしょ?猫もたまにするやつもいるし、鳥だって出来る。だけどハムスターが芸をしてるのって見たこと無いから教えてみたんだよ」
「凄い!!!どうやって教えたんですか!!!」
確かに私は良く動物番組を録画して見ているので彼も必然的に一緒に見ていた
その中でハムスターが芸を披露している姿等見たことも無い
俄然興味を示す私に彼は無表情なまま説明をしてくれた
「どうやって………って……そりゃ繰り返しだよ。オヤツを見せて回った時だけ与える。そうしてる内に覚えさせるんだよ」
「イルミさん凄い!流石指導者ですね!教えるんが上手なんや!親方もめっちゃ偉い!世界一のハムハムやぁー!!」
私は興奮をそのままにクッキーを食べ終えたキュートな親方を抱き上げた
落ちてしまっては大変なので低い位置に腕を降ろしつつも頬ずりをする
フワフワと気持ちの良い感覚に心が癒された
「イルミさんいつの間に親方とそんな仲良しになったんですか!」
彼と親方の仲を気に掛けていたので余計に嬉しく思う
「………別に」
何が気に入らないのか何処か不服そうな彼を見遣りつつも笑顔が漏れた
彼と親方の絆を見たヒトコマだった