第73章 親方とのヒトコマ
8月のある日
アルバイトから帰宅すると彼はライオネル親方のケージの前に座っていた
動物を特段好きでも嫌いでも無い素振りの彼だが何故だか親方への当たりはキツく彼が親方へ意地悪をしない様に日々目を光らせている
更には彼と親方が仲良くなる為にエサ係は彼の担当になっている
私は水変えトイレの清掃や月に一度のケージ清掃等全般を担当している
珍しく私より早く帰宅していた彼が何故親方の前に座っていたのか不思議に思いつつも変わった様子も無く元気に動き回る親方に心配無用かと夕飯準備に取り掛かった
今晩の夕食はレバニラ炒めと鶏肉のニンニク炒め、大根サラダを添えて中華スープを作った
元の世界にいた時よりは大分まったりと仕事しているのだろうが、仮にも彼は力仕事
体力を付けて貰わねばとガッツリしたメニューにしてみた
居酒屋でアルバイトの日はどうしても手抜きがちになってしまう分気合いも入っている
リビングに広がる芳ばしく香るニンニクが食欲をそそる
全てちゃぶ台に並べると彼は定位置に腰掛けた
流れるテレビ番組からオーストラリアの税関職員が奮闘するボーダーセキュリ○ィを観ながら夕食
癖のある食べ物が苦手な彼だがニンニクやレバーは大丈夫な様で上品な所作ながらみるみる内に食べ進め頬袋を作る彼
「おかわり」
「はい!」
空になった茶碗を受け取り炊きたての白米を善そう
余程気に入ったらしくその後もう一度おかわりした彼は天気予報を観ながら洗い物をする私の背後で抑揚無く笑っていた
(………ほんまに………何がツボなんか全然わからん………)
すっかり空になった炊飯器
明日の分の米を炊いておく
そんなに気に入ってくれるならまた作ろう、なんて考えていると
「沙夜子、座って。見せたいものがあるんだ」
「………なんですか……?」
彼に促されて並ぶ様に座る
ちゃぶ台の上には親方のケージ
(…………何故………)
親方は普段部屋の隅のカラーボックスの上が定位置な為まじまじと見てしまう
彼の手にはハムスター用のクッキー
私が購入したのだが親方の体調管理を考えて与え過ぎるなと彼に注意指導を受けた代物だ
なんだかんだ言いながら面倒見が良いなぁと感心した出来事だったのだが何故そのクッキーを彼が持っているのか…………