第72章 花火と月
石段に躓き短い悲鳴と共に身体が傾く、
と逞しく引き締まった腕に抱き止められてつんのめった
「うっ……!」
「大丈夫?」
「ありがとうございます……」
完全に預けてしまった体重に慌てて自身の足で立つ
半袖の為当たり前なのだが素肌が触れ合い声が裏返ってしまったのは仕方がないと思う
私は暑くなった頬を両手で冷やしつつ石段に腰掛ける
彼も隣へ座り先程コンビニで購入した夕飯を手渡してくれた
「ありがとうございます」
「うん」
海を眺めながら食べようと提案したのだが
真っ暗で石段から海迄の距離もあり全く何も見えないので意味が無い様に思えたが車内で食べるより余程赴きがある様に思う
其々食事をしつつも星が見える、とか以前釣りに行った頃の話しをしたりして気が付くと沢山の思い出を共有している事に胸が暖かくなったりした
食事を済ませ、せっかくなので私達は波打ち際にやって来た
響く波音に広がる真っ黒の海は何処まで続いているのか空と一体になり不気味さすら感じる
振り返ると静かに佇む彼の姿を頼もしく感じて靴を脱いで少し足を浸すとぬるい水温が心地良い
一人だと恐怖すら感じる夜の海だが彼が居れば何があっても大丈夫な気がした
「転んじゃ駄目だよ」
彼の酷く優しい声に元気に返事を返した私は飽きる事無く波と戯れた
そんな私達を見ていたのはキラキラと水面を照らす真ん丸い月だけだった