第72章 花火と月
突拍子も無く意味深な台詞を残した彼は少々苛立った様子でハンドルを握る手を落ち着き無く動かし道路脇から車線変更する車両に舌打ちをする
彼がこうも不機嫌を露にするのはヒソカさんとクロロさんが自宅へ侵入した日以来だろうか………
車という狭い空間に二人きり
彼を見遣るとテールランプに照らされた整った顔を不機嫌に歪ませている
……そういえば夜に彼とドライブをするのは何気に初めてな事に気付き勝手にワクワクした
不機嫌な彼に声を掛けるべきか迷ったが言葉を発してみる
「イルミさん」
「ん?」
「夜のドライブ初めてですね」
「……確かに……………うん」
「!?」
途端にハンドルを切られぐいっと傾く身体
空いていた反対車線を走り出す車に疑問符が浮かび隣を見遣ると
彼の横目と目が合った
「何処か行こうか」
「えっ!」
「道混んでるから暫く帰れそうに無いし」
「……はい!」
思わぬ提案に胸が弾み喜びをそのままに笑顔を浮かべる
「何処に行きたい?」
流れ出した景色に彼の声が響く
「海!」
やけに大きく答えた私のリクエスト通り車は進んだ
私はすっかり楽しくなってお気に入りのCDをかけて歌ったりした
一時間程かけてやって来た二色浜海水浴場
車を降りると暗闇に寄せては返す波音が響き波風が頬を撫でて気持ちが良く思い切り伸びをする
「海やー!!!」
「真っ暗だけどね」
「あはは、ですね!」
すっかりはしゃいでいる私は彼の先を歩くが注意散漫に成り足元がお留守番になっていた……